ぴかまく公論 表面処理と金属資源

2011 年 4 月 18 日

表面処理と金属資源

岡山県工業技術センター 日野 実

 この度の東北関東大震災で被災された皆様に、謹んでお見舞い申し上げますとともに、被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。 

 最近、各種金属資源の枯渇が世界的な問題となっています。特に尖閣諸島で発生した中国漁船拿捕による中国からのレアアース金属の輸入差し止めが、日本の工業生産に対して大きな影響を及ぼしたことは記憶に新しいと思います。

 独立行政法人物質・材料研究機構によれは、2050年までに多くの金属が現有の埋蔵量ではまかないきれなくなり、中には埋蔵量の数倍もの使用量が予想される金属もあるようです。ちなみに2050年までの累計で、現有埋蔵量の数倍の使用量が予想される金属としては、銅、鉛、亜鉛、金、銀、ニッケル、マンガン、アンチモン、リチウム、インジウム、ガリウムだそうです。これらの金属の多くが表面処理には必要不可欠な材料です。

 リーマンショック以降、金属材料の価格は比較的安定していましたが、最近、金や白金をはじめ、多くの金属材料が高騰しており、表面処理業界は、これらの資材の高騰をコストに反映することが難しく、利益を圧縮しています。

 一方、BRICs諸国やアジアを中心に目覚ましい経済発展を遂げており、それに伴い、鉄鋼材料の需要が増加しています。鉄鋼材料は、安価で加工性やリサイクル性に優れるなどの数多くの利点を有し、基幹素材として金属材料の中では最も多く用いられています。ちなみに鉄のクラーク数は4番で、資源も豊富にあります。さらに、鉄鋼製品の大多数がリサイクルされています。

 しかし、このように数多くの利点を有する鉄鋼材料も耐食性には難点があります。よくご存じだと思いますが、“赤さび”と呼ばれる腐食が発生します。鉄鋼製品は、主に構造材料として用いられるため、赤さびの発生は、強度低下を招き、長期信頼性を著しく低下させることから、表面処理が極めて重要になります。

亜鉛めっきは、これらの鉄鋼材料への防食めっきとして、実用されている様々なめっきの中で最も多く適用されています。これは腐食環境下では、亜鉛と鉄の電位差(420mV)が大きく、その優れた犠牲防食能(亜鉛めっきが優先的に溶解し、鉄を腐食から守る)によるものです。しかし、亜鉛のクラーク数は、0.004%と極めて少ないことから、このまま鉄鋼製品の需要が拡大すると、それに伴い、亜鉛の使用量も拡大し、冒頭の2050年はおろか、今後20年以内に枯渇すると言われています。

私たちは亜鉛めっきの代替プロセスとして、亜鉛系合金めっきを提案してきました。特に亜鉛-ニッケル合金めっきは、皮膜中のニッケル量が815mass%の間で亜鉛めっきと比較し、耐食性が10倍以上も向上します。さらに亜鉛-ニッケル合金めっき中にナノサイズのシリカを複合化させることによって図1に示すように耐食性が同じ膜厚の亜鉛-ニッケル合金めっきよりも2~3倍向上し、亜鉛めっきと比較すると100倍以上も向上します。実は、このことが枯渇金属である亜鉛の使用量の抑制につながります。というのも、亜鉛-ニッケル-ナノシリカハイブリッドめっきは、亜鉛めっきよりも100倍以上もの耐食性を有するため、めっきの膜厚を亜鉛めっきの1/10程度にしても亜鉛めっき以上の耐食性を得ることが可能で、それによって亜鉛の使用量を1/10以下に抑制することができます。さらに、電気めっきの際、電解時間も亜鉛めっきのそれに比べ、1/10以下にすることができ、省資源ばかりではなく、省エネルギーにも貢献できます。

図1 亜鉛-ニッケル合金めっき中のシリカ共析量と赤さび発生までの時間

最近、ヨーロッパを中心に亜鉛めっきに代わって亜鉛-ニッケル合金めっきが適用されはじめました。金属の枯渇問題は、今後、地球規模で問題となることは容易に予想され、ここで紹介しためっき技術も希少金属の代替プロセスとして貢献できるものと確信しています。今後、表面処理業界のみならず、鉱工業生産に関して、常に元素戦略を考慮していくことが最重要課題ではないでしょうか?

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